仮処分勝訴!主文

第三九号 従業員地位保全等仮処分事件

山田副委員長懲戒解雇事件

勝訴

勝訴決定

主文

一 債務者は債権者に対し、平成一二年三月から本案の第一審判決の言い渡しに致まで、毎月二五日振り月額三八万八九九四円の割合による金員を仮に支払え。

二 債権者のその余の申立を却下する。

三 申立費用は債務者の負担とする。

当裁判所の判断

一 被保全権利について

 本件解雇の有効性について

(1)平成一二年一月一七日 シャトルドライバー二名に組合ビラを交付した件について

 疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者が平成一二年一月一七日、ジャパン社のシャトルドライバー二名に組合ビラを交付した件は一応認められる。しかしながら、右交付の時期が就業中であったまでは認められず、仮に就業中の時間帯であったとしても、審尋の結果によれば、右ドライバー達に組合ビラを交付したのは、喫煙場所において喫煙していたわずかの時間であったことが一応認められるから、右組合ビラの交付がジャパン社の業務を妨害したとまでは認めがたい。

(2)平成一二年一月二二日、就業中のジャパン社社員西村修治に対し、組合パンフレットを交付するなどした件について

 疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者が平成一二年一月二二日、ジャパン社の就業時間中にジャパン社の社員西村修治に対し、組合パンフレットを交付したこと、西村と三〇分ないし四〇分程度の時間は話していたこと、以上が一応認められる、しかしながら、組合パンフレットを渡した時期が、西村修治の就業時間中であったとまでは認めがたく、西村との会話のよって、ジャパン社の業務が妨害されたとまでは認めがたい。

(3)平成十一年十二月末ころ、社内便であるコメールを不正に使用した件について

 疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者が社内便であるコメールを利用して、組合関係の文書を送付したことが一応認められる。そして、業務上の便宜のための社内便が組合活動や個人的な用途に利用された場合、会社の業務を阻害することは容易に推認できる。しかしながら、疎明資料及び審尋の結果によっても、債権者がコメールの私用の常習犯であったとまでは断定しがたい。また、疎明資料及び審尋の結果を検討しても、債務者において、コメールの私用の禁止について、社員に徹底していたとの事情は認められず、このような状況の中で、コメールを組合関係文書の送付に利用したことにつき、過去に注意を受けたことがあるなら格別、そのような事実も認められない本件において、コメールを私用したことが直ちに解雇事由となるほどの重要な会社施設の個人的利用と評価することはできない。

(4)組合問題の議論のために、事前に上司の許可を得ることなく、会社の電話を私用して東京に長距離電話をかけた件について、

疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者が、組合活動についての連絡などのために、東京の組合員との間で会社の電話を利用して会話したことが一応認められる。会社の電話を組合活動のために利用されると、会社の業務を阻害する結果になるのは当然である。しかしながら、疎明資料及び審尋の結果によっても、債権者が利用した頻度、時間、費用などが解雇事由になるほどの頻度、時間、費用を費やしたとまでは認めがたい。

(5)マネージングディレクターから、前記(2)の件について尋ねられた際、虚偽の供述をした件について

疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者が、結果として虚偽の供述をしたことは一応認められる。しかしながら、虚偽といっても、積極的に欺因するとか詐術を弄するというような類の供述ではなく、むしろ、その場逃れの場当たり的な供述であって、企業秩序違反行為、忠実義務違反行為であるとはいえ、解雇事由とするほどの不服従、反抗的行動と評価することはできない。

(6)@ないしDの行為の前に、警告書が発行されていること等について

疎明資料及び審尋の結果並びに審尋の全趣旨によれば、債務者主張のとおり、本件解雇において債務者が問題とした債権者の行為の前に、警告書が発行されていることが一応認められるが、前記(1)ないし(5)で検討した結果を総合考慮すると、警告書が発行されていることを考慮しても、未だ、解雇事由になるほどの重大な職務義務違反、就業規則違反があったとまでは認めがたい。

(二)以上のとおりであるから、ピープルマニュアルの法的拘束力について判断するまでもなく、本件解雇が使用者の正当な権利行使であるとまでは認められない。

そうすると、債権者には債権者主張の被保全権利が一応認められる。

2 本件解雇の承認の有無について

本件疎明資料及び審尋の結果によれば、債権者は債務者の労働組合の中央執行副委員長であり、本件権利放棄書に署名した翌日には、組合を通じて本件解雇の撤回を申入れるなど、その後も一貫して本件解雇の効力を争っていることが一応認められる

右債権者の態度からすると、本件権利放棄書への署名は、本件解雇を承認してなされたものとは認定しがたい。

よって、債権者が本件解雇を承認していたとの債務者の主張は採用できない。

3 債権者は、賃金仮払と共に、雇用契約に基づく従業員たる地位保全を求めているが、賃金仮払の外に地位保全を必要とする特別の事情は何ら主張しておらず、また、本件疎明資料及び審尋の結果を斟酌しても、地位保全も必要とする特段の事情は窺えない。

よって、地位保全については、被保全権利の存在は認められるが保全の必要性が認められないのでこれを却下する。